2014年9月19日金曜日


2014カナダ・ヴァンクーヴァからの便り―①

 

“日々是好日”

 

ヴァンクーヴァーの滞在

2014年の夏もまた、ヴァンクーヴァーで過ごしている。すっかり夏の恒例行事として定着してしまった観がある。定宿は、UBCのキャンパスに立地するホテルである。キッチン付きのルームを借りて、この恒例行事にはいつも率先して参加する家内のお蔭で、日常的なことに煩わされず、静養を兼ねた静かな研究環境を確保できているのは、当節ではまことに稀有なことかもしれない。

文書の解読と論述に倦んだ夕方には、ホテルから車で3分の海岸沿いの道へ散歩に出かける。6キロほどの遊歩道が、大きくて穏やかな入り江に沿って走っている。海には、絶えず10隻以上のタンカーが停泊し、大小の船や白いヨットが行き交っている。入り江の北側のかなたには、ロッキー山脈の端っこに連なる雪山が見え、東方のダウンタウンのビル群も遠景を飾っている。

週末はビーチバレーのネットが数十も張られ、いたるところでBBQができる。犬の運動も可能であり、サイクリング道路も通っている。キチンと利用ルールが守られているので、実に静寂・安全であり、ゴミの散在もない。夏季でも日中の気温は24度前後であり、ドライの風が吹いているので、潮風といえどもベトツクことはなく、散歩道として恰好の場所である。

カナダとのご縁

近江商人の研究者ながら、カナダとの“ご縁”ができたのは、1992年以来である。すでに20年以上が経過している。京都産業大学在籍当時の同僚だった今口忠政氏(現・慶応大学名誉教授)がUBCを在外研究先に選んで、ヴァンクーヴァーに居住していたので、その夏に2家族でカナディアンロッキーを巡ったのがきっかけである。

旅行先の地理を検討しているうちに、はからずもカナダへの日系移民では、滋賀県からの移民が最多数を占めることを知った。日頃からの主張である近江商人の広域志向性を補強する素材として、俄然研究心に火がついたのは自然のなりゆきであった。以来、近江商人の末裔である滋賀県移民のビジネスを通じての定住過程をテーマに、毎夏の渡加(加奈陀)をくり返し、1998年からの在外研究先にUBCを選ぶことになった。

著書の発刊

研究成果の一部を、ミネルヴァ書房から『日系カナダ移民の社会史―太平洋を渡った近江商人の末裔達』として発刊したのは2010年。取り扱った内容は、第一次大戦時の日系カナダ義勇兵の足跡、カナダに展開した滋賀県移民による絹布商事会社シルコライナーの創業と経営、1938年のヴァンクーヴァーでの日系人の居住と営業の実態、リドレス運動の先駆となった太平洋戦争時の日系2世の苦闘、太平洋戦争後の日系人の再定住過程。

いずれの論考も、カナダと滋賀県内の両方で日系移民に関して調査発掘した史料をもとに、まとめあげたものである。調査の方法では、日本国内の近江商人の史料調査と同様に、ブリティッシュコロンビア州・アルバータ州・サスカチュワン州のカナダ中西部諸州でも、一次史料を発掘することを第一に心掛けた。

外国での調査

調査の思い出には忘れがたいものがある。その一つは、聴取調査が深更におよび、ホテルへの車での帰路に迷って、危うく深夜の外国の街で迷子になりかけたことである。また、数回のアプローチの果てに、ようやくドキュメントの委託を受けることに成功した時は、漆黒の闇となったアルバータ州の大平原のハイウェーを、ヘッドライトだけを頼りに運転することに何の不安も覚えないほどの熱気を感じたものである。

ともあれ、外国での調査活動には何事でも時間がかかる。一種のストレスを感じるのはいつものことであるが、それをいちいち苦にしていては仕事にならない。出来る限りの下準備は日本で調えて、健康第一に、気持の余裕をもって臨むほかはない。